東京地方裁判所 昭和42年(借チ)2069号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔決定理由〕一、本件申立の趣旨および理由の要旨は、
「1 別紙目録(一)の(1)の土地は相手方伊藤の所有に属し、昭和二一年頃相手方長谷川が右土地のうち同目録の(一)の(2)部分を建物所有の目的で賃借した。
申立人は、昭和三四年九月右地上に存した別紙目録(三)の建物を当時の所有者新橋平八郎から買受けるとともに、同月一四日その敷地にあたる同目録(一)の(3)の部分を長谷川から期間を定めず建物所有の目的で転借し、相手方伊藤の承諾を受けた。
2 かように申立人は、右土地につき、別紙(二)の(2)のとおりの転借権を有するが、これを地上建物とともに主文記載の中野孝一に譲渡したいと考えている。同人は食堂、アパート等を経営し、資力も十分であつて、右譲渡によつて相手方らに不利となるおそれはない。しかるに相手方らはこれを承諾しないので、その承諾に代わる許可を求める。というのである。
二、よつて検討するに、資料によると、申立理由1の事実が認められ、申立人は別紙目録(二)の(2)のとおりの転借地権を有するものと認められる。
しかして、本件全資料によるも、申立人主張の転借権の譲渡によつて相手方らに不利となるおそれがあるとは認められないので、本件申立はこれを認容すべきである。
三、次に附随の処分について検討する。取調べた資料によつて認められる事実およびこれに基づく判断は次のとおりである。
1 本件において申立人が新橋平八郎に支払つた約六七万円の代金のうちには転借権の対価に相当する部分が含まれていると見られるけれども、新橋が長谷川に対し金銭の支払をしたかどうかは明らかでなく、相手方伊藤に対しては転貸についての承諾料は支払われていない。転貸借の賃料は原賃貸借のそれと同額であり、現在一カ月3.3平方米当り約四〇円である。
2 次に本件土地の借地権価格については、鑑定委員会の意見を採つて二六三万円(更地価格を3.3平方米当り一六万円とし、二%の建付減価を行なつたものの七割)を相当と認める。
ただ、鑑定委員会の意見によると、申立人が転借権取得の対価として支払つたと見られる額に現在までの運用益を加算したものと、前記借地価格を比較し、その差額の三分の一にあたる五六万円を転借権の処分にあたり転貸人長谷川に配分すべきものとするが、これをそのまま財産上の給付額とするのは高額に過ぎ相当でないと思われる。
3 本件借地に関する従前の経過も、一般の傾向と同じく、賃料は比較的安く、相手方らにおいていわゆる借地の対価(賃料その他の金銭の支払を含む)を十分に取得していなかつたといえるから、譲渡許可にあたり財産上の給付を命ずるのが相当と考えられる。この場合、転借権の価格が考慮されねばならないが、委員会の意見にも指摘されているように、その評価についての的確な基準が確立しているとはいい難いけれども、前述の転貸借における事情および、転借権が賃借権の存在に依存するものであることを考慮し、かつ鑑定委員会の意見も合わせ考え、前記借地権価格から約一〇%を減じた二一〇万円を相当と考える。そうして財産上の給付としては、前述の従前の経過に鑑み、後に述べる特殊事情を除外した場合の一応の基準としては右転借権の価格の一〇%が相当と考えられる。
ところで、本件においては、申立人の直接の契約上の相手方である長谷川だけでなく、相手方伊藤についても財産上の給付をなさしめるのが相当であるが、原則的には右の範囲内において相手方両名間で配分すべきものと考えられる。
4 ただ、本件においては次のような事情がある。
すなわち、資料によると、相手方伊藤が申立人への土地の転貸を承諾した後、承諾料が問題となり、その話合の際長谷川において、転借人(新橋もしくは申立人のいずれかを指すであろう)から相当の入金があれば、坪当り二、〇〇〇円の割合の金を支払うと述べたことがあり、伊藤はこの金額を請求できるものと考え、一方長谷川はその支払の前提となる入金がないことから伊藤への支払の要なきものと主張して解決を見ていないが、双方とも本件の財産上の給付においてこの事情が考慮されれば、これによつて問題を解消したいと望んでいることが認められる。
5 そこで、かような経過をも酌んで給付額を決定することとし、相手方長谷川に対し一五万円(前記転借権価格の約七%)、相手方伊藤に対し一〇万円(転借権価格の五%弱)をもつて給付額を定めることとする。
6 なお、賃料については、本件の場合は借地法一二条による調整に委ね、附随処分としてこれを変更する要はないと認める。(安岡満彦)
目録
(一)(1) 東京都大田区東矢口三丁目二九〇番地
宅地 3927.27平方米
(2) 右土地のうち約一六五平方米
(3) 右のうち 79.06平方米(23.91坪)
(二)(1) 右(一)の(2)の土地を目的とし、賃貸人を伊藤文蔵、賃借人を長谷川保次とする普通建物所有目的の賃借権
(2) 右(一)の(3)の土地を目的とし、転貸人を長谷川保次、転借人を山本貞治とする普通建物所有目的の転借権(昭和三四年九月一四日成立)
(三) 右(一)の(3)の地上に存する(家屋番号二九〇番一七)
木造瓦葺平家建 居宅 一棟
床面積20.92平方米(六坪三合三勺)